前回の記事では、FTX事件の詳細をまとめたので、この記事ではだらだら漫談をします。
Alameda Researchの初期の活動
2022年11月17日現在、FTX/Alameda 関連で、たくさんのリークが続いています。 SNSが完全に成熟した現代の事件だなという感じがします。
その中で先日Alameda Researchが作成した 2018年のPitch Deck が出回っており大変興味深かったです。 (投資家向けのパンフレットみたいなもの)
1/ Alameda Research's 2018 Pitch Deck pic.twitter.com/FtMS83WMTB
— Steven (@Dogetoshi) November 11, 2022
彼らが暗号通貨バブル崩壊後の2018年に取っていたポジションなどが公開されています。
マーケットニュートラルな手法 により、低迷するクリプト市場においても 安定して年利100%の利益を叩き出していたとされています。
特に投資家向けのパッケージが凄くて、「無リスクで年利15%を約束します!」みたいなことを言っています。
こういった投資の文化には疎いですが、「High Returns with NO Risk」とか普通書きますかね。
今回の事件では、いつでも引き出し可能な年利5%のFTX Earnプログラムが被害を広げましたが、 年利x%でいつでも引き出し可能、みたいな約束をする手法はこの頃から既に始まっていたようです。
Alameda ResearchはScamか?
こう見てみると、Alameda Researchが既にポンジスキームの詐欺のようです。
自分も事件後、マドフとSBFを比べて、もしかしてAlamedaもFTXも全てスキャムだったのかなと思ったことがあります。
史上最高のポンジスキームを仕掛けたバーナード・マドフのWikiを是非読んでみてください。
— 紫藤かもめ (@shidokamo) November 10, 2022
FTXとAlamedaの件、ここまで悪質ではないにせよ、「金融のプロも騙された」「高利回りを謳った」「一目置かれる存在だった」などなど、よく似ていると思いませんか?https://t.co/jrQCZX6TwJ pic.twitter.com/3M4XsozgOG
しかし、Alameda Researchが初期に莫大な収益を上げていたのはおそらく事実です。
なぜなら BitMEXのリーダーボード にAlameda Researchは君臨し続けていたからです。
FTX イコール 先物取引所
話は逸れますが、FTXは、Futures Exchange(先物取引所) の略だそうです。
ちなみにこの場合 Futures というのは「未来」や「将来」のことではなく、「先物」という意味です。 英語では、普通は名詞が名詞にかかる場合は最初の名詞は単数形になりますが、(🙅Shoes Store、🙆Shoe store) そのルールが適用されておらず、先物という意味を明確にするためにFuturesが複数形になっている点から読み解くこともできます。 英語のこの複数形のルールを覚えておくと結構役立つことがあります。
ともかく、FTXが初期には暗号通貨先物取引を強く志向していたのはその名前からも間違いないでしょう。
暗号通貨先物取引所 イコール BitMEX
そして、暗号通貨先物取引所といえば2018年当時は、BitMEXのことでした。
BitMEXは以下のような取引所でした。
- 2016年サービス開始
- ビットコインなどの暗号通貨先物取引を提供(スポット取引はなし)
- 証拠金はビットコインのみ
- KYCなし
- 24時間全世界にサービスを提供
- 最大100倍レバレッジ
- 出金は1日1回のみ
ただでさえボラティリティの大きいビットコインに対して、100倍レバレッジの先物取引をビットコイン建で提供するという頭のネジが飛んだ商品を提供しましたが、 その革新的なスタイルで、暗号通貨の無期限先物市場を開拓し大きく押し広げたプレイヤー でした。 優れたユーザインターフェース、高性能なバックエンドを提供し、24時間メンテナンスなしで膨大な取引を処理しており、 ユーザは メールアドレスの登録のみで完全匿名で即座に取引 を開始できました。
要するに無法地帯です。
Alameds ResearchはBitMEXにいた
BitMEXには、Leaderboard という機能があり、全アカウントの中で最も運用成績が良いアカウントを表示していました。
このランキングは基本的に匿名ですが、設定により実名表示を行うこともできました。 ちなみにFTXにも同じ機能がありました。
Alameda Researchは、このランキングに長期間名前が記録されていたという事が知られています。(XBTというのはBTCのことです。)
Alameda Researchはこのランキングを持って自らの運用成績を証明することが出来ました。 おそらくPRにも使っていたのではないかと思います。 また、界隈で実際これをもってSBFを信用した人は多いはずです。
もちろん、ランキングに不正がないということは証明できませんが、長期間掲載されていたことや、 当時大きな収益を上げていたBitMEXにAlameda Researchの順位を操作するインセンティブがそれほどないと考えれば妥当性があるのではないかと思います。 BitMEXは無法地帯でしたが、秩序があり、その気風から言って、ランキングに不正が入る可能性は低そうです。
そして、BitMEXは当時圧倒的なシェアを誇る世界一の暗号通貨先物取引所だったわけですから、 この時期の Alameda Researchが莫大な利益を上げていたのは確か ではないかと考えています。
FTXは消臭されていった
そして、次のステップとして、Alameda ResearchはFTXという取引所を作る訳です。
筆者は個人的にリスクをガンガン取っていくタイプですが、それでもFTXは、「BitMEXで荒稼ぎしてたやべえ奴らが作った取引所」というなんとなくの警戒感はありました。
ポーカーのめちゃくちゃ強い先輩が、今度新しいポーカー場作ったから遊びに来てよ!と呼ばれたような感じで、 実際すごく面白い取引所だったんですが、なんかちょっと怖いよね…くらいの警戒感です。
暗号通貨先物取引所は昔から怪しさ満点で、 BitMEX時代には 匿名で参加者の殆どがギャンブルみたいなことをしているのが良いことな訳がない という了解が共有されていたように思います。 例えば、BitMEXが年利5%を約束します!みたいなことを言ってもシリアスな金額を預ける人はいなかったでしょう。
ところが、根っこが同じようなものだったはずのFTXは 最終的に綺麗に消臭され、 信用に足る預け先のような立場を築くことに成功します。 FTXユーザは騙されても仕方ないにしても、FTXに投資したプロの投資家たちは経歴を洗うとかしなかったのでしょうか? BitMEXのような無法地帯で荒稼ぎしていた人間が作った取引所に対してどうして最終的にあれだけ綺麗な金が投資で集まったのか不思議です。 まさにバブルの徒花でした。
素直に流れを追えば、Alamedaがより楽に大きく儲けるために自前で取引所を作ったというそれほど輝いていない臭いストーリーがまず第一に来るような気がします。 さらに穿った見方をすれば、トレードの優位性を失う可能性が見えていたために打開策として取引所を作ったとか、 取引所のエンジンを自分達に優位に利用するためだったとか、いくらでも怖い想像はできるんですが、 これを飛び越えて顧客資産流用にまで踏み込むのはさすがに想像外ですね。
BitMEXとFTXを比べてみる
そんなことを考えて、同じ先物取引所としてFTXとBitMEXと比較をしてみると切り口として面白いのではないかと思って比べてみました。
こうしてみると、FTXはほんとに良い取引所なんですよね。
出金手続き
すっかり忘れていたんですが、BitMEXの出金は 全世界で1日1回 しかされませんでした。 出金申し込みを受け付けておいて、ある時刻になると一気に全部処理するのです。
これは、ホットウォレットが全く存在せず、資産が全てマルチシグのコールドウォレットに格納されており、 1日1回手動で処理しているためとされていました。不便ですよね。
まあスポット取引がなく、取引所内の金利のみで取引価格をコントロールしているから成せる技なんで、 FTXにはこんなことは無理なんですが、このBitMEXのデザインは今思えば非常に優れていました。
この手続きが非常にセキュアであるとして当時は評価されていましたが、 いつしかFTXの便利さに慣れてしまうとそういう声は消えました。
対応チェーン、対応通貨
対応チェーンや通貨についてもそうで、FTXは多種多様なチェーンや通貨にいち早く対応してくれるため 非常に利便性が高く人気がありました。
これで、いつでも出金できる環境なんですからFTXは素晴らしいと誰もが思ったものです。
主要通貨
主要通貨として米ドルが基軸になっているのもFTXは便利でした。
BitMEX全盛期にはそもそもステーブルコインがそれほど発達していなかったので、米ドルを主要通貨とするようなことはあり得なかったわけですが、 新世代の取引所であるFTXはユーザ目線で使いやすくしていて流石だなあと思ったものです。
対してBitMEXのCEOのアーサーヘイズ氏は、「米ドルは、世界最大のシットコインです。」などというコラムに書くほどのアナーキストでした。
https://blog.bitmex.com/ja_jp-why-quanto/
末路
そしてどうなったかというと、BitMEXは米国の顧客に違法なデリバティブを提供したとして2020年10月10日に追訴され、 CFTCから1億ドルの制裁を喰らい、経営陣が逮捕される事態に至りました。 しかし、経営陣が逃亡するなどの混乱の中でもマルチシグの鍵の受け渡しはなんとか無事に行われたようで、顧客資産が凍結されるような事態には至りませんでした。
対して、FTXはクリーンなイメージとは裏腹に顧客資産を使い込んだ上で経営破綻 しました。
反省
というわけで、自分としては今回の件で以下の様な教訓を得ました。
- あまりに保守的になりすぎてもチャンスを逃すのでこの先も積極的にリスクは取りたい。
- 暗号通貨、まだまだこの先10年で最も成長が見込まれる分野だと思ってる。
- その上で、取引所やプロダクトに関わらず、運営者の前歴は徹底的に調べたい。
- どうしてもリスクが読めない部分があるので致命傷を食らわない様に資産の管理で対応する。
- 出来るだけシンプルなものの方がリスクは少ない。
- 便利さに惑わされてはいけない。トレードオフになっているものを考える。
- VCの出資などは全く信用できないので無視する。
- 取引所トークンのような錬金術には特に注意。必ずトークンの分散状況などをオンチェーンで調べる。
- 事業の構造が複雑になっているものは特に注意(なぜかカッコよく見えるのでよく見極める)
- 事業を多角化していく方針を察知したら離れる。
追記:英語大事
あと、被害を防ぐ自衛手段として一番大切なんじゃ無いかなと思ったのが、「英語を学ぶ」 です。
例えば、SBFは以下のようなツイートを2020年8月30日にしていました。YFIを見誤った反省から語る「正しさについて」と題して、
https://twitter.com/SBF_FTX/status/1300043513761902592
- “Do you wanna make money or do you wanna be right”
- 「金が稼ぎたいのか、それとも正しくありたいのか?」
卑しい人間性がストレートに出ていて私はすごく好きですが、割とクズい感じがします笑。
日本人はギャンブル好きな国民性を持ちつつも、本来保守的でリスクを避ける傾向が強いはずです。 なので、こういうツイートなどがちゃんと共有されていけば正しく警戒できるはずなんですが、 うまくリスクが計算できないのはやはり英語で情報を理解できないからかなと痛感しました。
というかツイートしてて分かるんですが、海外の一時情報を翻訳するようなものに需要がありすぎなんですよね。 冬の時代にやるべきことNo.1は、英語を学ぶこと かもしれません。